沖正弘先生監修の月刊誌「ヨガ」の昭和42年12月号における先生の文「健康生活の原理」の要約の続きです。
1. 動物は受動的に環境に適応しているが、人間は積極的かつ意識的に環境に適応している。すなわち人間の祖先は適応の仕方を工夫し研究して次第に生存圏を拡大してきた。しかしその適応の仕方は自己を変えることによってではなく、自分に他物の便利を加えることによってだった。これにより人間は文化生活をすることができるようになったのだが、その反面、自分自身の力は低下してしまった。これが人間弱化の一因である。進化しながら、便利な生活をしながら、しかも自己本来の適応力をも失わないでという願いに基づいて研究されているのがヨガである。
2. 私達はただ生きているのではなく、生命力が生体の中で働いているから生きている。生命力とは自分の内の生きる働きと自分の外の生かす働きとの協力である。食べ物や空気に生かす働きはない。内に働く生きる働きが、外の生きる働きに生かす力を与えるのだ。だから、空気が無限にあっても人は死んでいく。死人に食べ物を与えても、生き返りはしない。内なる生きる力と外なる活かす力の合体したものが生命の働きであり、この生命の働きに最高度に協力するのがヨガの道である。
3. その工夫においてまず第一に重要なものは、体的心的正食である。食が血を作り、血が我々を養い作り上げていく。そして知性が私達の心を作り上げていく。正食とはバランスの取れたものである。
4. 私達の体は一つの生殖細胞から出発し、この一つのものが次第に分裂増殖して、必要なところに必要なものを形作った。全体が一つとして働き、生きるに必要な全体的なバランスをとっているのだから、部分を切り離したものとして考えることはできない。だから、一部の強弱といえども、全体観に立って見なければならない。
生命の働きがこの全体性維持のために必要なすべての方法を知っており、そのはたらきを持っている。だから生活を整え、全心身の働きを整える行法を行うときに、生命自身が自ずから正す方法を自然と行じていく、すなわち真の健康体が生じてくるのである。
5. 多くの人が無自覚に習慣的な生活をしていて、誤った生活を誤りとも気づかない。苦しみは誤りに気づけという生命の訴えと教えであり、その中に正しい方向への指針が含まれている。
6. 呼吸の生理的、物理的、化学的、心理的意味について正しく理解している人が一体何人いるだろうか。心理状態も生理状態も生活態度も呼吸型として現れている。息の深浅が体内の新陳代謝の状態に決定権を与えている。ヨガでは呼吸コントロール法を重要視している。呼吸のコントロールは万芸に通ずるコツとして最も重要視されている。
7. 私達は環境の協力によって生きている。この環境の物理的刺激に対して適応作用を行っているのが神経であり、また、化学的刺激に対して適応作用を行っているのが分泌腺である。この偉大なる二者の働きを体験と霊感によって把握したのがヨガの先輩達だ。ヨガ行法はそれを基礎として系統立てられてきたのだ。もちろん今のように学問的に研究したものではないから、生理学的な詳細な説明はしていない。彼らはこの真理を考えたのではなく、感じ取り、神経をクンダリーニ、腺をチャクラと名づけた。生体が外界とのバランスをとるためにも、生体内環境が全体としての一まとまりとなってバランスを維持するためにも、また、宇宙と自分とが合一するためにも、この二者が完全に働かなくてはならない。
私達の個性別は、この腺と神経の働きの違いによって生じる。この腺と神経の働きの傾向は環境の刺激の相違によって生じる。刺激を変えれば腺と神経の働き方も変わってきて、私達の気質、体質も違ってくる。このことが自己改造法の原理である。腺も神経もバランス刺激を与えた時にだけ正常なる働きを行う。この故にヨガの各行法は、バランス刺激法の工夫をしているのであり、バランスの取れた生き方をすることが神すなわち生命に協力することである。私たちは古来、体内に自ら治す自然治癒力の働いていることを聞いている。この本体が、神経と腺なのである。薬物で治すことは弊害を伴うものだと言われるのも、この両者に悪影響を及ぼすからである。
8. 病気を人間とその生活から離して見ることは誤りだ。私達の見るべきものは、病気そのものではなくて、病人と病気を作り出す環境であり、病的生活法なのだ。
9. この宇宙に顕れるすべての現象はみな必然的なものであって、偶然のものは一つもない。ヨガは「すべてのものには依ってくる所以あり」と説いている。病でも災難でも必ず前ぶれの変化があるはずだ。だから、この前ぶれを読み取って病災を未然に防ぐ、これが宇宙の声(神の声)を聞くことであり、真の学問的進化である。
10. 人間生活は過労と心労に侵されやすい。だから、心身の異常因はここにあると言ってもよいくらいだ。その原因は不自然な緊張の連続である。過労・心労に陥らない生活をするには、
- 無理な生き方をしないこと
- 生体には自己防衛の働きがあるから常時適当な刺激を与えて抵抗力をつけておくこと
- 心身のくつろがせ方を知っていること
である。ヨガは心身のくつろがせ方を重要な行法としている。
3/全3稿へ続く